「キサゲ加工」という作業をご存じでしょうか。
金属加工の一種で、機械製造には必要不可欠な作業で、手作業で行われています。
この記事は、キサゲ加工の必要性や手作業で行われている理由、作業工程をまとめました。
キサゲ加工とは
「キサゲ加工」とは、キサゲと呼ばれる工具を用いて、金属の表面を高精度に仕上げる技術のこと。
「キサゲ」または「スクレーパー」と呼ばれる、先端に刃物がある工具を用いて、手作業で行います。
非常に高い精度で表面を平面や直角などに加工でき、工作機械にある2つの面がこすれながら動く摺(しゅう)動面や半導体製造装置などの部品を製造する際に欠かせません。
キサゲ加工は古くから行われており、18世紀に発生した産業革命ごろから金属へキサゲ加工がなされるようになったといわれています。
キサゲ加工の目的
キサゲ加工は、主に精度を高めることを目的としています。
工作機械などは非常に高い精度が求められ、精度が落ちると作成物に大きく影響するためです。
また、キサゲ加工を施さなければ、部品が必要以上に摩耗してしまい、機械そのものの寿命を縮めてしまうリスクも。
よって、キサゲ加工なしでは生産そのものが困難だといえるでしょう。
具体的には、次のようなものにキサゲ加工が必要です。
1.摺動面
2.貼り付け面
3.定盤
次からは、上記3つになぜキサゲ加工が必要なのか見てみましょう。
1.摺動面
摺動面には適度な凹凸をつくるためにキサゲ加工を施します。
なぜなら、互いにこすれあう2つの摺動面が密着してしまうと、必要以上に摩耗してしまったり、摩擦熱によって部品が変形してしまうためです。
ですので、摺動面には潤滑油などが入り込む「油溜まり」と呼ばれる凹凸を作り、摩擦を軽減して摩擦熱によって部品が変形するのを防ぐ必要があります。
この凹凸が大きすぎると部品の動きが阻害されてしまうので、職人による精度の高いキサゲ加工が必要なのです。
2.貼り付け面
部品を貼り付ける「貼り付け面」の平面を整えるためにも、キサゲ加工は必要です。
摺動面には凹凸をつける一方、貼り付け面は誤差のない平面や直角などに整える必要があります。
研磨機で平面を整えるという方法も考えられますが、研磨機を用いると熱によって金属が変形して誤差が生じるリスクが。
精度の高い平面に仕上げるため、キサゲ加工による調整は必須といえるでしょう。
3.定盤
定盤(じょうばん)とは、工作機械の部品の加工や組立、検査などを行う際に用いられます。
定盤は非常に綿密な面取りが必要で、表面をなめらかにしなければなりません。
表面に微細な凹凸があるなどして定盤の精度が低いと正確な測定が困難となるため、キサゲ加工によって高精度な平面に加工することは必要不可欠です。
また、定盤の表面が摩耗してしまったときにも、キサゲ加工を施せば精度を取り戻すことが可能です。
キサゲ加工の工程・赤アタリと黒アタリ
次からはキサゲ加工はどのような流れで行われるか、見てみましょう。
主に次のような工程で行われます。
1.赤アタリ
2.黒アタリ
上記それぞれの作業内容は次のとおりです。
1.赤アタリ
定盤の表面に塗料を薄く塗布し、キサゲ加工を施すものをすり合わせます。
すると、不要な部分に染料が移るので、その部分を削り落とします。
この工程を「赤アタリ」といいます。
2.黒アタリ
次に「黒アタリ」と呼ばれる次の作業を行います。
赤アタリを施した箇所に顔料を塗布して、定盤とこすり合わせると、定盤に染料が移るので、その部分を削ります。
上記の「赤アタリ」と「黒アタリ」を複数回繰り返すことで、より高い精度の平面に仕上がります。
なお、上記の作業では、古くから日本画などに用いられてきた赤い顔料「光明丹」を用いることが一般的ですが、青や黒などの顔料を用いる場合もあります。
光明丹に含まれる鉛は人体に有害だといわれているため、鉛を含まない顔料が使われています。
職人によって異なる仕上がり
キサゲ加工の興味深いところは、職人によって仕上げの個性が現れる点です。
キサゲ加工では、油溜まりを作るためにあえてくぼみを施すケースがあります。
そのくぼみは細かな模様となり、職人によって違いが見られるのです。
主な模様は以下の通り。
・市松模様
・三角模様
・綾目模様
・三日月模様
・千鳥模様
・うろこ模様
1μmほどの深さで施され、模様が細かいほど精度が増します。
キサゲ加工を職人が行う必要性
前述したキサゲ加工の工程をみると、「機械で行ったほうが早いのではないか」と考える方もいらっしゃるでしょう。
現在は、工作機械のIoT化が進み、高い精度での加工が可能となりました。
しかしそれにもかかわらず、手作業によるキサゲ加工がなされているのでしょうか。
それは、工作機械の精度は向上しているものの、人の手を超えられないためです。
熟練した職人によるキサゲ加工は1μmの精度で平面度を作ることが可能である一方、工作機械では数μmの調整すら難しいといわれています。
とはいえ、1μmレベルで加工を施すには卓越した技術と豊富な経験が必要です。
誰もが習得可能な技術ではなく、長年にわたって研鑽を積まなければキサゲ加工を行うのは困難でしょう。
キサゲ加工の機械化は実現するか
キサゲ加工は習得するまでに非常に長い時間を要するため、誰もがキサゲ加工職人になれるわけではなく、人手不足が懸念されています。
また、少子高齢化によって働き手が減少していることもあって、キサゲ加工の機械化の必要性が高まっています。
近年は、キサゲ加工を含む熟練工の仕事を機械化する取り組みがなされていますが、現在のところは、機械に熟練工の仕事を代替させるのは、困難といわれています。
よって、今後も職人によるキサゲ加工は必要とされるでしょう。
まとめ
工作機械などの精度を高め保つには、キサゲ加工が必要不可欠です。
機械化が進む昨今で、手作業によるキサゲ加工が必要とされていることに驚く方は多いのではないでしょうか。
当社にも細かなキサゲ加工が可能な熟練した職人が在籍しております。
キサゲ加工が必要な際には、お気軽にお問い合わせください。